これはちょっと微妙というか……(苦笑)。とはいえ、こうした読後感も、宇佐美まことの作品はコレ全て傑作であるべしという高いハードルで挑んでいるがゆえのもので、アンマリ大きく構えずに読むのであれば十分に面白いです。ただ、先日取り上げた『淫らなツユクサ』や『の・ぞ・く――天窓の下』みたいな本格ミステリとしての技巧を活かした驚きや趣向を期待しているとやや肩すかしカモしれません。
物語は、同窓会に参加してタイムカプセルを掘り出したのをきっかけに、ヒロインは気持ちワルイ元教師との爛れた関係を始めるにいたる。ゲス男の調教によって体を開発されていく彼女の元にかつて憧れていたボーイが現れ、いいカンジになっていくのだが、……という話。
『淫らなツユクサ』は変態野郎がそれなりにイケていたのに比較すると、今回ヒロインが関係を持つに到る男は外見からしてかなりヤバい外道であるところが『愛玩人形』を彷彿とさせます。とはいえ、『愛玩人形』が人形をモチーフに幻想的なエロスを垣間見せていたのに対して、こちらは元教師がひたすら言葉責めを含めたプレイで調教を重ねていくという展開で、リアリズムに徹したエロスを強調しているのが本作の個性でしょうか。
元教師とのプレイじゃないとコーフンしないという体に開発されてしまったヒロインが、それでも昔から憧れていたボーイとの邂逅をきっかけに幸せになれるかというと勿論そんなにうまくいくはずもなく、冒頭のシーンでドンヨリと暗いイメージを喚起していたタイムカプセルに絡めて過去の因業がムクムクと立ち上がり、ヒロインは奈落の底へと堕ちていきます。
本作では、元教師とのシーンにもっぱらエロ怖の「エロ」の部分を配し、「怖」については、隠された過去の因業を通奏低音に、最後の最後、――かなり唐突な形でヒロインを奈落へと突き落とす伏線回収によって見せてくれるのですが、この不意打ちにも近い終わり方は完全にひばり風味。
おそらく宇佐美女史も判ってやっているんじゃないかと推察されるわけですが、個人的な好みでいえばやはり、異界のものの哀切をミステリの技巧によって描き出した『淫らなツユクサ』などの方が好みでしょうか。現実的な解と現実的な事件の収束を目指したという点では、かなりリアリズムを重視した本作ながら、それでもすべては因業とも呪いともしれない何かによって操られていたのでは、――という仄めかしはやはり恐怖小説の王道であり、「一番怖いのは人間」みたいな有り体な締めくくりで終わらせないところは流石です。
エロ怖における宇佐美女史の入門編というにはチと辛い一編ゆえ、ビギナーの方であればまずは傑作『淫らなツユクサ』や『の・ぞ・く――天窓の下』を手に取られてから、本作に挑むことをオススメします。