泥土 / 落差草原 WWWW

泥土 / 落差草原 WWWW「台湾のPopol Vuh」と勝手に呼んでいるバンド(爆) 、落差草原 WWWWのファーストフルアルバム。以前にリリースしていたミニアルバム『通向烏有』、『太陽升起』の二枚と音の質感は同じながら、やはりフルということもあって、コンセプトアルバムとしての構成の妙が素晴らしい。堪能しました。

落差草原 WWWWは、現在のところ、ボーカル、ベース、リコーダー、パーカッション担当の愛波に、ギター、パーカッション、コーラス担当の啊龍、ボーカル、キーボード担当の唯祥、ドラムの一之に、小白を加えた五人からなるグループで、2010年に自主製作版でEP『通向烏有』を、2013年には耳光音樂からEP『太陽升起』をリリース。そして昨年にはフルアルバムとなる本作『泥土』を刊行、――と順調に版を重ねるごとに音が洗練されていくどころか、ますます土着感の強い個性を増していっているところが個人的には興味深い。インタビュー記事などを読むと、メンバーは林生祥やBjorkのほか、ワールドミュージックが好きだが、直接に影響を受けた音楽はない、とのこと。また創作のプロセスにおいても、まずはそのストーリーを皆で話し合い、そこからさまざまな感覚的なものをインスピレーションによって引き出す、――みたいな感じで、まず音ありきというよりは、物語の骨子であり音を喚起する言葉がかなり重要な位置を占めている様子。メンバーの愛波がインタビューで、『通向烏有』に収録されている「小細節與事件」は、ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩からインスピレーションを得たと答えており、また本作と同じタイトルとなる詩集『泥土』を昨年同時刊行していることからも、そうした創作姿勢は十分に理解できるところでしょう。

そうしてつくられた音の方はというと、なかなか説明が難しい(爆)。民族音楽とニューエイジを彷彿とさせる電子楽器の使い方に明快さがあった『通向烏有』や『太陽升起』に比較すると、歌ものが少ない本作はその構成と音世界はかなり個性的。荘厳な”オーム”のマントラで始まる冒頭の「樹靈」で度肝を抜かれると、続く「安靜的步伐」は枯れ葉を踏みしだいて山中を歩いているかのような効果音のみという展開から一転、「上山」のほぼギターのみという一曲とそのタイトルから、ようやくこれが山中の雰囲気を音像によって表したものなのだなということに思い至ります。

「入夜溪谷」では、密林を思わせる動物たちの鳴き声を背景に、電子効果をふんだんに効かせた囁きに民族音楽調のドラムが重なるという一曲。これに続く「療癒之泉」は、低音のドラムにマグマのうねりを思わせる効果音が延々と繰り返されるという、これまた実験的な一曲。風と何かが燃えるような効果音だけという「星子般通往風的方向」を挟んで展開される「高粱」にいたって、ようやく歌を絡めたメロディが演奏されるのですが、「黒」と「地下小樂隊」では再び流水と動物の鳴き声のみという破天荒な展開が凄い。しかしアルバム全体を聴き終えると、こうして挿入された効果音のみの曲が、場面展開を行う企図で加えられていることが判ります。すなわち、深山幽谷から谷を下り、そして川を渡りながら、やがては最後の「海洋」で海に致る、――という物語ということになるでしょうか。

非常に実験的でありながら、そうした効果音での曲の転調が妙に心地よく、また「上山」や「月桃」といったシンプルなギターの曲が、西洋音楽にも民族音楽にも組みしない風格を持っているところなどはかなり好み。そして「鷹的告別」のような、あきらかに舞踏を意識した曲風など、緩急自在にして、上に述べた物語を想起させるアルバム全体の構成もまた素晴らしいの一言。一曲一曲の派手さはないものの、コンセプトアルバムとして全体をじっくり聴き通すと麻薬的な恍惚を感じることができる一枚といえるでしょう。ちょっと今の日本では比較できるものがない、強い個性を感じることのできるバンドです。ライブはちょっと呪術的な雰囲気もあるようで、これは実際に観てみたい、直に聴いてみたい気がします。台湾のアンダーグラウンドのバンドといえば、来月にはFORESTが来日するんですが、個人的には落差草原 WWWWにも是非とも日本ツアーをやってほしいなァと、切に希望する次第です。

通向烏有 / 落差草原 WWWW