第五回島田荘司推理小説賞レポート@台湾(2)

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前回の続きです。二日目の御大のスケジュールですが、訪台前にはインタビューが入っていたものの、それがキャンセルとなったので、午前中は故宮博物館を巡り、ランチのあとは故宮の別館を見学。その後、足裏マッサージで疲れを癒やし、夕方からはチャン・ロンジー(張榮吉)監督の新作となる『夏、19歳の肖像』の試写会と続き、最後は松山の「珈琲や」でチャン監督とともに歓談――という内容でした。

自分は故宮博物館の見学と試写会には参加できなかったので、この記事ではチャン・ロンジー監督と御大の「珈琲や」における歓談内容とその後の夜市散策のみを取り上げることにします。

実際にお会いできたチャン監督は非常に気さくな方という印象でした。傑作『光にふれる』や、ミステリー・サスペンス『共犯』(pipiことヤオ・アイニンちゃん可愛いッ!)の二編を偏愛する自分の中では、ちょっと気難しいひとかなァ……と勝手に思っていたのですが、自身の映画に対する思いなど、こちらの妙チキリンな質問についてもはにかむような笑いも交えてフランクに答えてくれました。

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で、気になる新作『夏、19歳』ですが、まず御大から「監督の作風としては『光にふれる』に近い、ストレートな作品」とのコメントがあり、続いて「非常に雨のシーンが印象的だった」とも。「雨のシーンというのは非常に大変で、人工的に雨を降らせるとなると準備から後片付けまで一苦労だった筈ですが」という質問を御大が向けると、監督曰く、後半に登場する雨のシーンでは、人工的につくりだした雨は一切なく、二日間降りっぱなしだったチャンスを活かして映像を撮ったとのこと。

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そこから話題は、主演の黄子韜ことTAOちゃん(御大はこう呼んでいるのでこの記事でもこれに従います)にも及び、御大が「TAOちゃんの演技も素晴らしかったですね。後半になるにつれて、演技にますます磨きがかかっていったような雰囲気がありましたね」というと、これについてはチャン監督曰く、TAOちゃんの演技も撮影を始めたころはまだ振り切っていないような感じだったのだけれども、そうした彼の様子を見ていた楊采鈺(この映画でヒロインを務めた女優)が相当にハッパをかけて”演技指導”を施したらしく、そこから二人の絆がさらに深まり、彼の演技もどんどん良くなっていった、――とのこと。

『夏、19歳』の原作は八十年代の作品で、それを2017年の現代に映画とすることで劇中には監督なりの改編が施されているとのことでした。自分は映画を見ていないので、この点、それがどういうものなのかはここでは指摘できないのですが、例えば1980年代にはなかった携帯電話が劇中では使われていたりといったものから、原作中の主人公とヒロインとの関係などについても大胆な変化がつけられている様子。

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小説を原作に映画を撮る場合、原作に忠実に従うか、あるいは原作の良さを活かしつつも敢えて大胆な改変を施しても良いものか、――ということが議論されるものですが、今回のチャン監督なりの改編は御大も大変気に入られたようです。

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さて、チャン監督の二作を見て感じるのは、例えば『光にふれる』における光をメタファーに活かした映像や、道路標識が登場人物たちの内心に対する神の視点からの暗喩になっていた『共犯』など、知的にしてスタイリッシュな映像ではないでしょうか。こうした人工美ともいうべきものについて質問を向けると、チャン監督曰く、やはりそうしたカットは製作当初からかなり意識して意図的に入れているとのことでした。また『夏、19歳』における雨のシーンに絡めて、水というものの存在はことのほか、監督の映画では大切な意味を持っているらしく、幼少時に雨に打たれたときに特別な感情を抱いたとのことで、その原体験を監督は「染まる」という言葉で表していました。水によって自分が「染まり」、それによって自分が「別のものに(生まれ)変わる」――。

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そんな監督の話をうかがったあと、今度は御大から手塚治虫の短編作品に絡めてAIをテーマにした映画の構想についての説明がありました。こちらは中国関連なのですが、実現した暁にはまた御大から発表があるかもしれません。

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監督は翌日からニュージーランドでのロケハンがあるとのことで、珈琲やでお別れ。その後、中野夫妻と吉木遼君も交えた御大一行は「珈琲や」からほど近い饒河街観光夜市へと繰り出しました。

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しかしこの夜はうだるような暑さで大変でした。夜市へと入ったのが九時半過ぎで、それから一時間ほど夜店が立ち並ぶなかを一時間ほど徘徊したあと、媽祖廟の前で解散。明日は授賞式本番ということで、御大と文藝春秋のA俣氏はタクシーでホテルへと戻った一方、まだまだこれからといった感じのタフネスぶりを見せつけたのが中野夫妻で、先ほど見かけた文鳥占いを試してみたいということで、通訳のシンディ女史を連れて再び殷賑な夜市へと消えていきました。

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さて、この次の記事は御大関連を一休みして、今回文藝春秋から『13.67』が刊行された陳浩基氏と歓談した内容についてお伝えしたいと思います。乞うご期待。

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