コンビニなしでは生きられない / 秋保 水菓

偏愛。あらすじ紹介をさらっと読んだ限りでは、ユルユルの日常の謎モンかなと油断していたのですが全然違いました。高度な現代本格のアレの技法を駆使して連作短編の最後に見事などんでん返しを見せたかと思えば、そのいっぽうで悶絶しそうな胸キュンの恋愛模様を描いていたりと、総合点ではいささか評価に戸惑ってしまう一冊ながら、個人的にはかなり愉しめました。

物語は、学生生活に馴染めずに中退したあと、コンビニで働いている冴えないボーイが、バイトでやってきた新人の娘ッ子とともに奇妙なお客さんの引き起こした事件を解決していくうち、過去の盗難事件を彷彿とさせる事件がふたたび発生。実は以前の盗難事件ではバイトをしていた男の子が犯人を疑われたあげくに自殺をしており、――という話。

前半は、店に居座る強盗犯人のフーダニットや、消えたお札の行方など、ある意味コージーな日常の謎モンとしてサラサラと読めてしまう短編が続きます。このまんま最後までこんな感じかな、と思っていると、コンビニの盗難事件をきっかけに物語は過去にも同じように発生していた事件に絡めて、この店で働いていた男の子の自殺へと話が及び、その彼が遺していた暗号めいたシフト表の解読から、盗難事件の真相とフーダニットを繙いていく、――という意想外の展開が素晴らしい。

ユルーい日常の謎と思っていたら、その背後で隠微な事件で進行してい、思いのほかその事件の真相がおそろしいものだったりというのは、今までの日常の謎モンではたびたび眼にしてきた作風ではありますが、本作ではコンビニという現代的な舞台の背後に昨今の経済事情や若者たちの鬱積した思いなどをシッカリと重ねて現代の青春ミステリへと昇華させた作者の手さばきが秀逸です。

ミステリとして特筆すべき本作の魅力は、やはり盗難事件の仕掛けに現代本格のアレを二重構造へ仕立てて、素晴らしいどんでん返しを見せているところでありまして、最後のアレによって、前半の日常の謎の真相をまたもう一度改めて別の視点から解き明かしみせる展開も期待通り。さらにすべての真相が解き明かされたあと、タイトルにもある『コンビニなしでは生きられない』という言葉に主人公のボーイの心情を重ね合わせて、そこから胸キュンキュンの青春恋愛物語へと急上昇してみせる趣向には悶絶至極(ただ、イマドキの小説だと、ここまであからさまに青春青春していないとヤングは満足できないのカモ、と感じたりしたのはナイショです)。

ありきたりの日常の謎から現代本格のアレを駆使した趣向へと変化してみせる前後半の結構や、この「失われた20年」の平成不況の中で苦役と搾取を強いられる現代の若者の姿をくだくだしくアジテートするのではなく、事件の背景に織り交ぜてスマートに活写した作風も素晴らしく、最後の胸キュンだけはちょっとやりすぎでないノ、とは感じられるものの、『閻魔堂沙羅の推理奇譚』と同様、仕掛けによって人間ドラマを描き出すという本格ミステリならではの人間描写が冴えわたった一冊として、大いにオススできる逸品といえるのではないでしょうか。

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