幻想リアルな少女が舞う / 松本英哉

第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作である『僕のアバターが斬殺ったのか』の作者の新作、――といいつつ、VRにサスペンスといった本作の趣向は『斬殺』の既視感がありまくりで、結論からいってしまうとあまり物語にのめりこむことができませんでした。

あらすじはというと、学園のアイドルがとある廃墟で自殺していた事件の真相を究明して欲しい、という依頼を受けたボーイが、探偵的才能を持った娘っ子とともに、ゲーム世界である幻想とリアルを行き来しながらその真相へ迫ろうとする、――という話。

あくまで個人的な好みなのでアレなのですが、VRのゲームアプリとか、VRガジェットを装着してドラゴン退治のバトルを突然町中でおっはじめるとか、アイテムだの宝探しとかいうノリがどうにもアレでありまして、いっとき一世を風靡したポケモンGO(だっけ?)とか、ケータイゲームにどハマリしているヤングであればまだ違った感想を持たれるのかもしれませんけれども、そのテのものには正直まったく関心がない、――というかむしろあまり好きではない自分としてはまずもってこの物語世界に没入するのにかなりの苦行を要したことを素直に告白しておきます。

とはいえ、事件にかかわる謎めいた人物の暗躍や、登場人物たちの隠された過去、さらにはポシティブなアイドルの心の煩悶や、運命の悪戯によって彼女に関わることになったしまった人物との酷薄な過去と因縁を丁寧に事件の構図へと編み込んだ人間ドラマは、『斬殺』よりも数段の進歩を遂げており、ヤングを射程に据えたであろうゲームアプリだドラゴンだバトルだ宝探しだといった舞台装置の装飾をいったん脇に置いてみると、ほろ苦どころか劇薬ほどの苦さと毒をもった青春物語として愉しむことができるカモしれません。

運命の悪戯というしかない偶然のはたらきによって出会ってしまった人物たちの辛い過去とリアルな心情とを、背景を知られることのないオンライン空間での闊達な振る舞いに対照させて、そこにアイドルの自殺事件と現在進行形で探偵たちの周囲に巡らされた犯人の企図とを重ねて、関係者のドロッとした心の闇を解き明かしていく後半の推理はイヤミス風味。

登場人物たちの過去に、出自を隠すことのできるオンラインの人物像がノイズとなって紛れ込んでいるがゆえに、全体の構図が垣間見えない人間関係に比較すると、幻想とリアルをレイヤーで重ねた現場に出来したアイドルの自殺事件の真相に関しては、勘の良い読者であれば意外にあっさりと見破ることができるのではないでしょうか。

もちろんこのVRガジェットを通じて見ることができるものは動画とはいえ、リアル世界に幻想を重ねたレイヤー構造とあれば、写真現像をなんかを趣味している御仁であればこのトリックに気がつくことは存外に容易であろうし、そうした画像処理テクニックの背景がなくとも、幻想とリアルのレイヤー構造で可能な「仕掛け」といえば意外なほどにバリエーションは少なく、本作に用いられたトリックはその基本中の基本とでもいうべきものであるところがチと惜しい。逆に言えば、幻想とリアルのレイヤー構造という舞台設定がむしろ縛りとなって、トリックの手数を限定してしまっているように感じられます。これだったら、薛西斯の『H.A.』のようにいっそのこと、事件のすべてをVR空間に限定してしまったほうが、異世界本格と同様のアプローチでもっと新しいトリックを案出することが可能だったのではないかナ、――と感じた次第です。

自殺事件の真相という、ミステリ的な仕掛けに関してはやや期待外れの感があったものの、ドロッドロの青春暗黒物語としての趣向は抜きんでており、そうした登場人物たちの暗部を翳りのある筆致で描き出した青春ミステリとして読み進めた方が愉しめるような気がします。ゲームにバーチャルにバトルにドラコンにお宝探しといった趣味性が、自分のようなゲームに関心のないロートルにはやや辛いものの、VRモンならではのミステリに興味がある方であればそのあたりのは没問題に違いありません。というわけで、自分のような、ゲームとかには興味がなくってさァ……というロートルの方にはやや取り扱い注意、ということで。

0 comments on “幻想リアルな少女が舞う / 松本英哉

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です