「メイド・イン・フクシマ恋愛映画」誕生物語 / 沼田 憲男

台湾の超絶美女pipiちゃんこと、姚愛寗(ヤオ・アイニン)主演の映画『恋愛奇譚集』ができるまでの舞台裏を綴った一冊。自分はこの映画、上映されているときには観る機会を逸してしまい、なおかつDVDもいまだ発売されず(台湾ではすでに発売済)、――ということでまだ観ていないのですが、映画の物語を知らずともなかなか愉しむことができました。

作者は、「福島の住人でもなければ出身者でもない」「ただの「よそ者」」で、「それも70歳を間近に控え、特に肩書きを持たない、ただの年寄り」。そんな彼が「ふつうのオヤジでも何かできることがあるはずだと考え」、「福島を風評被害から救いたい」という、「やむにやまれぬ思いだけを胸に、無謀にもたった1人で」、福島新知事に「福島芸術村構想」なる提案書を掲げて直談判に挑むや、紆余曲折あって、一本の映画を撮ることにいたり、――という話。

映画の舞台となるのは天栄村。自分はまだ訪ねたことがありません。ちょうど中通りの白河・須賀川と会津の真ん中あたりに位置する村なのですが、関東方面から東北道を使って会津に行くとなると、たいていは郡山から磐越道を使うか、白河から西郷村を通って会津下郷に出てしまうので、須賀川―天栄村―湯野上温泉というルートは使ったことがないゆえなのですが、この本に掲載されている写真やネットにアップされていた予告編の動画を眺めるに、なんとなく白河から西郷村へと抜ける土地の雰囲気に近いかナ、と感じました。

さて、そんな場所を舞台にした映画を撮ると決めたものの、様々な難題が発生し、その解決に作者は奔走することになるわけですが、そうした問題のあらかたは制作予算に関することでありまして、このあたり、失われた20年の暗い世相を反映しているなァ、……と感じた次第です。何しろ今の日本は昔と違って、”地方同士が競争するのは当たり前で、それによって格差がつくのも当たり前で、努力した自治体としないところを一緒にすれば国全体が潰れてしまう”そうですから、映画の予算を自治体が出すといってもそれだけで映画が一本撮り切れるはずもなく、消費税分の補填で揉めたりと、難題とはいえそのほとんどは金に関する些末なことばかり。またそこから大きなドラマが発生してすべてがうまく運んでい、……かないところが小説やドラ的の大きな違いでありまして、本作では、頭を抱えながらも作者の知り合いがそのたびに手を差し伸べてくれたりして難題をどうにかクリアしていくさまが淡々と描かれています。

本作を読了して感じたのは、やはり小説などと違って、映画っていうのは撮影に入るまでも煩雑な手続きが山積しており、さらにはひどくお金がかかるものなんだなァ、ということでしょうか。実際に少しでもお金を切り詰めようと、撮影スタッフへの仕出しや宿泊も村のひとたちがタダで援助したり(というか、こちらからお願いしたり)と、涙ぐましいほどに細かく出費を抑えていく様子が綴られています。

またお金と同時に人脈というのも映画撮影の要諦で、予算が足りないため、知り合いに4Kカメラの調達をお願いしにいくくだりがあるのですが、カメラは無事手に入れることはできたものの、今度はそのカメラにマウントするシネレンズがない。シネレンズはカメラ以上に金がかかり云々、――という説明があります。これだって、例えば作者が、あるいは作者の知り合いがシグマの山木社長の知り合いだったりしたら、どうなっていただろう、と考えてしまいました。会津に工場を拠点とするシグマの山木社長の鶴の一声で、抜群の性能を誇るシグマ性のシネレンズの調達だってトントン拍子に話が進んでいったのでは、――などと考えてしまいました。

映画撮影の様子が語られているのではなく、あくまで映画の撮影が本格的に始まるまでの、――いうなれば長いプロローグが綴られているだけという一冊ゆえ、撮影現場でのpipiちゃんはどんなだったんだろう、なんて期待から本作に手に取るとややガッカリという感じになってしまうのですが(実をいうとまさに自分がそうだったことはナイショ)、映画を撮ることの大変さと、地に足のついた現実的な課題や問題といった舞台裏を知るには非常に興味深い一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。

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