早朝始発の殺風景 / 青崎有吾

短いんでイッキ読み。少し前に読んだ『本と鍵の季節』がビターでややブラックに寄ったお話だったのに比較すると、同じ青春ミステリながらこちらは優しさの感じられる逸品揃いで、ロートルの自分でもかなり愉しめました。

収録作は、偶然に始発電車へ乗り合わせたクラスメート二人が、お互いに現在進行形で行っているあることを推理していく表題作「早朝始発の殺風景」、ファミレスで学園祭のクラスTシャツ製作をワイガヤしている娘っ子の一人のささやかな裏切りから、今まで知ることのなかった親友の秘密が解き明かされていく「メロンソーダ・ファクトリー」。

遊園地で後輩君と二人で観覧車に乗ることになったボーイの視点から”アッー”とおどろく策謀と操りを解き明かしてみせる「夢の国には観覧車がない」、捨て猫の出自を推理していく兄弟二人の会話から、二人の家族の哀切と希望を描き出した傑作「捨て猫と兄弟喧嘩」、卒業式を風邪で休んだクラスメートを訪ねた娘っ子が”密室“の様子からある秘密を繙いていく「三月四日、午後一時半の密室」、そしてすべての話を連作としてまとめた結節点ともいえる「エピローグ」の全六編。

いずれも”ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行“という縛りを持たせたところが秀逸で、登場人物の会話と所作を伏線としながら隠されていた秘密や策謀を解き明かしていくという構成が本作の見所でしょう。冒頭を飾る「早朝始発の殺風景」だけはやや不穏な空気を感じさせるものの、そのほかの物語は、いかにも青春ミステリらしい彩りが光る佳作ばかり。

表題作は、始発電車に乗り合わせた二人が二人とも、お互いの秘密を隠したまま、携帯電話に表示されるデータと少ない会話のみから、彼彼女が現在進行形で行おうとしているある行為を暴いていくというもの。リアルタイム進行という趣向を大きく盛り上げてくれるのが、まずは一言で真相をズバリと指摘して、そこから伏線を丁寧に回収していくという構成でありまして、相手の様子をうかがいながら、その違和感を端緒にあらかじめ推理を組み立てたあと、真相を推理のはじめにズバッ切りだしてみせるあたりは中期の連城ミステリを彷彿とさせてかなり好み。ボーイのたくらみはまだまだヤンチャな高校生と嗤えるものの、いっぽうの娘っ子がいま行おうとしている事柄に関しては、その経緯と背景が明かされていくにつれかなり深刻なものであるに違いなく、その後日談的なことが「エピローグ」で語られます。

「夢の国には観覧車がない」は個人的には「捨て猫と兄弟喧嘩」と並ぶお気に入り。遊園地で後輩君と観覧車に乗ることになってしまった先輩ボーイの視点から、後輩君のたくらみが明かされていくのですが、ここでも”ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行“の趣向がうまく活用されてい、はじめはまったく違和感もなく読み進めていた内容が、先輩ボーイの推理によって操りの伏線へと展開されていく構成が素晴らしい。

ここでは「犯人」ともいえる後輩君が先輩ボーイの発言に見せる反応にも注目で、“犯行”中に「おまえは楽しそうに見えるな」という先輩に、「心の中は不安でいっぱいですよ」と答えて見せたり、「葛城より先輩のほうが好きですよ」と“とっつきにくいことを言った”り、また推理のシーンでは「俺を殺すつもりだったんだ」という“探偵”の言葉に、「言葉の意図を察したのだろう。犯人は寂しげに微笑」んでみせたりというふうに、後輩君の「心の中の不安」や「好きですよ」や「寂しげな」という動作の真意など、思わずウホッ!と微笑んでしまう趣向が心憎い。

収録作中、もっとも優しい一編が「捨て猫と兄弟喧嘩」で、捨て猫を拾った兄弟が猫の処遇について話しを進めていく会話を追いかけていくうち、読者はこの二人の背景を知ることになるのですが、そこから捨て猫に関するある謎を妹の口から明かしつつ、込み入った背景を抱えたこの兄弟の未来を捨て猫に託してふたたび「エピローグ」で語ってみせる結構がとてもイイ。

現在進行形の会話や登場人物たちのささやかな所作を伏線へと転化して、丁寧な推理で魅せてくれる一編一編は、けっして奇をてらった展開こそないものの、作者の登場人物たる若者たちへの優しい眼差しを感じさせる逸品へと仕上がっています。ミステリとしての伏線回収の技巧のうまさはもちろんのこと、極上の青春ミステリとして一般の読者にも強くアピールできる一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。

本と鍵の季節 / 米澤 穂信

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