偏愛にして傑作。『○○○○○○○○殺人事件』のようなバカさを狂気へと昇華させた物語、とでもいえばいいか。堪能しました。
物語は、孤島にある児童養護施設の職員たちが嵐によって戻れなくなったのを幸い、語り手の僕はかねてより恨みのあった人物の殺人に着手するのだが、想定外の連続殺人が発生する。いったい犯人は誰なのか、――という話。
語り手も数人を殺そうと決意して実際、実行に移していくのですが、それと平行して不連続な殺人事件が発生するという構成そのものに仕掛けを凝らした趣向が作者らしい。タイトル通りに「殺人犯」と「殺人鬼」のVSなのですが、このタイトルそのものが真相の開示によってまったく違った構図へと転じる美しさとともに、そこに込められた冗談のような、それでいて狂気を孕んだホワイダニットが怖気を誘う。まさに作者でしか書けない一編といえるのではないでしょうか。
とにかくあまり多くを語りすぎると興を削ぐことになるため、これくらいにしたいのですが、語りと騙りのうまさは『○○○○○○○○殺人事件』から『ドローン探偵と世界の終わりの館 』を経て、本作ではますます磨きがかかったような気がします。けっして重厚といえる作風ではないのですが、この最後に?!となってしまう驚愕の仕掛けだけでも一読の価値アリで、Xなる人物の過去の逸話を添えて「殺人鬼」は誰なのかというフーダニットにこめられた企みと、登場人物たちのキャラ造形ともうひとつ、”あるもの”に込められた深意が狂気の動機とともに明かされる後半は圧巻の一言。そして圧巻、でありながらそれをあくまでライトにさらりと登場人物に語らせてしまう抑制された読みやすい文体も素晴らしい。
刊行される作品すべてが水準以上の逸品揃いで、個人的には現代本格の最先端を行く書き手の一人と確信している作者ですが、しかしまあ、毎回最後まで手の内を気取らせない語りの技巧には感服至極。作者のファンであれば自信を持ってオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。