シリーズ第二弾。『1』に比較すると、本格ミステリとしての濃さはかなり控えめ。収録作は、兄を探してもらいたいという依頼がコロシへと繋がる展開に違和感を抱いた探偵の鮮やかな推理「HIPHOPは涙の後に」、「HIPHOP」でちょろっと出た道具屋の思いもかけぬ大活劇を描きだした「道具屋・星憲章の予定外の一日」の全二編。
「HIPHOP」は、失踪している兄を探してもらいたいという依頼を受けたネメシスが、兄の痕跡を辿っていくうち、思わぬ犯罪グループの存在への繋がりを見せていく展開はスムーズながら、それが冒頭のコロシへと転じるところの違和感を事件の構図の反転に仕上げた趣向が秀逸です。緩いフーダニットなのですが、個人的にはむしろこの逸話を、次の「道具屋」でミスリードの仕掛けに利用した構成が素晴らしい。
「道具屋・星憲章の予定外の一日」は、タイトル通りに、ネメシスに協力する道具屋の男がヒョンなことから、とある男に関わることになり、「HIPHOP」でも登場した詐欺グループがそこに絡んできて、――という話。見事なのは、道具屋が巻き込まれた冒頭のシーンから大胆にも反転の仕掛けが明かされてい、「HIPHOP」で描かれた詐欺グループの存在そのものが強力な誤導として作用しているところでしょう。
道具屋は難を逃れたものの、どうにも腑に落ちない男の行動の謎を解き明かしてもらいたいと、ネメシスに依頼する。そこから思わぬ構図の反転が待ち受けてい、詐欺グループの悪行がささやかな人情劇へと転じる趣向がとてもイイ。
一応、ドラマ化のための、ということであれば、収録作としては「HIPHOP」がメインではあるものの、むしろ「HIPHOP」の逸話をすべて仕掛けとした「道具屋」の方が断然好み。アンナが日本にやってきた理由や、彼女の来歴などが明かされたりと、シリーズ全体の外観がうっすらと見えてきたような気もします。
「1」ほどの本格ミステリとしての強度はないものの、しっかりとエンタメしている一冊といえるのではないでしょうか。