『因縁帳、終章開幕!』とある通りに、いよいよ終幕が近いと感じさせる一冊でした。今回は、隠温羅流の祖の秘密を探るため、吉備津に出かけた春菜と仙龍だったが、またまた信州でトンデモない物件の話が湧き出してとんぼ返り。今回の物件は隠温羅流の過去にも大きく関わっていると思しき最凶なもので――という話。
関西に旅立ってとんぼ返りというのは前作と同じですが、今回は仙龍も一緒。神社の様子を観察してその神の曰くを繙いていく見せ方は、「ホラーミステリ」というより、半村良の伝説シリーズを彷彿とさせる伝奇小説のソレ。半村良の作品をこよなく愛する自分としては、前作以上にこの前半部はのめり込みました。ここだけでも本作は読む価値アリかと思います。
さらに今回の曰く物件というのがまた強烈で、役所の人間がまるで全身を虫に食われたようなおぞましき屍体で発見されたというからタマらない。サニワの春菜がその神の祀られているされる場所に行くと、エクソシストさながらに無数の虫がワンサカ蠢いているところを幻視してしまう――その虫に襲われて殺されたのかと思いきや、まったく意想外な真相がさらっと明かされる後半部には超吃驚で、この反転はまさに本格ミステリな発想で素晴らしいの一言。
今回は曳屋のシーンはなく、次作に持ち越しとなりましたが、隠温羅流の内部の敵とでもいうべき凶神をいったいどうするのか、そのあたりが一番気になるところではありますが、エピローグで春菜と仙龍の距離がより接近するシーンには、本シリーズをずっと追いかけてきたファンにはタマらないのではないでしょうか。巻を重ねるごとに強くなっていく春菜が逞しく、またそれが仙龍に対する想いをいっそう強くする流れも秀逸です。
個人的には、『アンデッドガール・マーダーファルス』と並んで次作が待ち遠しいシリーズですが、あちらに較べて『よろず建物因縁帳』は短い期間で新刊が刊行されるのも嬉しい限り。次作で完結か、それとも――どうにも凶神相手に一冊ではとても終わらないような気もするのですが、ともあれ、続きが気になります。これまでの因縁がすべて本作で繋がる趣向にも注目で、ここまで来たら、この一冊から読み始めるのはオススメできず『鬼の蔵』から腰を据えてじっくり取りかかるのが吉でしょう。何はともあれ超オススメ。