ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件 / 紙城境介

文句なしの傑作。『僕が答える君の謎解き』の作者のデビュー作でメッチャ面白いからッ!と某氏から強烈にリコメンドされた本作、『僕が答える君の謎解き』がロジックでギンギンに攻めた逸品だとすれば、こちらは奇想もの。個人的には後者が好みなので、本作も十二分に堪能しました。

物語を簡単にまとめると、古より伝わる叙事詩の通りに王座が燃え上がり、丸焦げになった死体が出現――という謎に『魔女狩り女伯』と新米騎士が挑む、というもの。七十二歳の王女が玉座に座った途端に燃え上がり、少女に若返ったという、――叙事詩に書かれた神秘が魔法によるものなのかという歴史的な謎があり、そこに現実世界の事件を重ねた構成がまず秀逸。

叙事詩に書かれた出来事は魔法によるものに違いない、というファンタジー世界だからこそ成立する前提が読者の前に提示され、それが魔法全書に記されたどの魔法を用いたのか、という点が謎解きの要諦ながら、ここには誤導に繋がる作者の企みがシッカリと仕込まれてい、さらには歴史的事件と現実の事件を連結するため、「見立て殺人」というミステリ読みであれば当然に思いつく要素をも添えた趣向が素晴らしい。

冒頭で明示される歴史的事件の調査を進めるうちに、現実世界でもそれをなぞった事件が発生するというミステリにおける「見立て殺人」の流れを見せながら、歴史的事件の調査を進めながら「表」に線を引いていくうち、いつの間にかそれが「裏」の現実世界に引かれた線へと変転して、表裏が一本の線で繋がってしまうという、メビウスの輪のような超絶技巧が凄まじい。さらには探偵役と宿敵二人の因縁の推理対決も用意して盛り上げる外連も言うことなし。

また事件の真犯人と、『見立て殺人」に見えた歴史的事件と現実の事件の真相が明かされるに至って、本作は(文字反転)「タイムトラベル」ものを言葉通り「裏返し」にしたミステリであることが判明するわけですが、「タイムトラベルものに駄作なし」の通りに、本作もまた、ファンタジーならではの物語世界をベースに誤導と反転を凝らして、仕掛けによって事件の当事者である人物「たち」の二重写しな人間ドラマを描き出したところに注目でしょう。

正直、ロートルの自分は、ファンタジーやライトノベルズは苦手ゆえ、普通であればまず手に取ることはなかったであろう物語ながら、『僕が答える君の謎解き』で見せた整然たる怒濤のロジックに加えて、奇想においても抜群の冴えを持つ作者の力量を知ることができて大満足。食わず嫌いはいけないヨ、という意味でも、自分のような偏屈なロートルのミステリ読みの方にこそ手に取ってもらいたい一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。

『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』『僕が答える君の謎解き 2 その肩を抱く覚悟』 / 紙城境介