もう先週のことになってしまうのですが、6月28日に藤沢GIGSで開催された「Sounds Of Fujisawa vol.142」に出演した台湾の電子音楽ユニット・楊鐘のパフォーマンスを聴きにいってきたので、写真とともに簡単ながら感想をまとめておきたいと思います。楊鐘は、梁香に次ぐMad氏のユニットで、梁香が氏のシンセとAlfaの歌と組み合わせであったのに対して、楊鐘はMad氏のシンセと、Doraこと楊茜茹のピアノからなる二人構成。梁香のライブをSHIBUYA PLUGで観たときには、事前に派樂黛唱片のオムニバスアルバム『派樂黛F1-哲人之石』に収録されていた「如果我可以接受沒有如果」を聴いてい、いうなれば一応の予備知識をもって挑んだわけですが、今回は敢えてsoundcloudやyoutubeに公開されている音源も聴かずに会場へと足を運び、梁香とはまた風格の異なるサウンドとパフォーマンスにすっかり魅了されてしまいました。
梁香ではAlfaの歌声を前面に押し出した趣向ゆえ、畢竟、その演奏においてもMad氏が左側やや後方に機材を構え、ボーカルを務めるAlfaが客席を向いて歌を披露する、――という、歌ものの定石に従ったパフォーマンスであったのに比較すると、楊鐘では写真の通り、二人が機材を介して向き合うような布陣となっていました。客席の方をほぼ振り返らず、二人で演奏に没頭している様子からも察せられる通り、その音は非常に内省的。ピアノが奏でる旋律は、地下の暗いライブハウスなんかよりも、もうすこし”かしこまった”場所の方が似合うんじゃァ、というくらいに美しいもので、そこへシンセのノイズがときに重なり、またときにはピアノのつくりだす音像に変化を与え曲調を変転させていきます。
面白いと感じたのが、シンセの音色がことのほかレトロチックできらきらした最近のポップスやロックとも異なり、――自分のようなロートルが七〇年代の国産プログレや八〇年代の電子音楽などでさかんに耳にしていた調整が施されていたことで、このあたり、若い世代のリスナーはむしろ一廻りして新鮮と感じるのカモしれません。
そして最後の一曲が梁香の名曲「來生」であったことが個人的にはとても嬉しかったです。やはり会場でも大きく盛り上がったのもこの曲で、ピアノの旋律からしずしずと盛り上がっていく後半部の緊張感、そして爆発はまさにライブ演奏ならではの醍醐味でしょう。以前に観た渋谷での梁香のパフォーマンスにも勝るとも劣らない素晴らしい演奏だったと思います。
なお、今回のイベント “Sounds Of Fujisawa vol.142″で、楊鐘は二番手の出演でした。一番手は、藤森翔平。フォークギターの弾き語りというスタイルで、まだ客の入りは少なかったのですが、個人的にはとても印象に残りました。特に声がいい。ハスキーボイスに至らないぎりぎりのところに、若者らしい甘さを添えた歌声は、自分のようなこの手の音の門外漢が聴いても心地よかったです。二曲目あたりだったか、「もう少し明るい曲を……」と切りだして弾きはじめた「オー・シャンゼリゼ」の間奏のところで、いきなり肉親の死を語り出したところには面食らってしまいましたが(爆)、オリジナル曲の「まぼろしの郊外」を熱っぽく歌ったパフォーマンスはこれもヨカッタです。
そして楊鐘のあとに登場したKENTA HAYASHIのパフォーマンスの凄さにはただただ唖然。ラップタッピングなどの超絶技巧に様々なエフェクトやサンプリングを交えて、ワンマンで一曲を”構築”してしまう演奏には超吃驚、氏のパフォーマンスを観たのはこれが初めてだったのでまさに魂を抜かれた心地がしました、――とこの次には取りを務めるデンジャーデンジャーの演奏が控えていたのですが、ずーっと何時間もの立ちっぱなしで腰と膝が悲鳴を上げていたため、自分はここであえなく離脱。なお、会場で手に入れた楊鐘のEPが手許にあるので、少しばかり聴きこんだあと、また感想をあげたいと思います。
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