シリーズ六作目。すでに最新作の『怨毒草紙』がリリースされているものの、この数ヶ月小説を絶っていたので未読です、――というわけで、ようやく数日前に読了した本作、前作の『魍魎桜』が怖さよりも癒やしに大きく振りきった作風であったのに比較すると、こちらは浅間山荘事件を彷彿とさせるキ印男にアジテートされたリンチ事件に、ヤバもんの人形の悪魔憑きを絡めておどろおどろしく展開していく作風がシリーズの中ではやや異色と言えるカモしれません。
何しろ今回は相手が悪魔。敵も和モノとは大きく異なる立ち位置ゆえ、哀切だの郷愁だのといった風情とは無縁。そもそもそうした人間的情緒をいっさい排した洋モノの悪魔に曳家の力が通用するのか、という疑問があるわけですが、こちらは曳家ならではの大掛かりな力業を用いて悪魔退散を実行してみせる後半のシーンが圧巻。
教会に住んでいて悪魔の餌食となった神父一家の逸話も交えて、サニワのヒロインがその過去を繙いてみせる趣向はこのシリーズならではながら、今回はアッサリ風味。むしろ過去と現在を繋ぐ死者と生者の縁よりも、ヒロインと仙龍との関係と今後が気になる終幕が何とも。シリーズ当初は仙龍にホの字ながら、どちらかと言うとツンデレで通していたヒロインが、サニワの自覚を強くするに従って、デレデレになっていくところが面白い。今回の曳家が仙龍に対してパット見は悪い結果をもたらしたように見えて、その実、まだ誰もその意味するところを理解していないため、今回の仕事が今後どのような展開を見せていくのかはかなり気になるところです。過去の物語で言えば、『犬神の杜』に登場したアレがアレしてくるところなどは、仙龍の今後に明るい見通しを与えてくれたともいえるものの、さてどうなるのか。
ヒロインの仙龍に対する思いと心情の変化もまた本作の見所ゆえ、本作から手に取るのではなく、やはり『鬼の蔵 』からしっかり読み始めるのがベストのような気がします。