本作を読了して残すところ宇佐美まこと女史のエロ怖もあと二冊となりました。何となく予想していたことでありますが、本作の出来も微妙(苦笑)、――というか、やはり『愛玩人形』に『の・ぞ・く――天窓の下』、そして『淫らなツユクサ』を超える作品はないのカモ、という気がします。何しろ残る二冊のタイトルは『欲張りトモコの体験』に『肥満女のかぎりない欲望』ですから推して知るべしというか……。
あらすじは、かつてスケベ上司との不倫によって淫らな体に開発されたヒロインが、お局さんにぶち切れつつ仕事をしていると、このビルに棲んでいるビル男なる謎の存在を耳にする。何でもそれは、男日照りのオンナたちに桃源郷のような快楽をもたらすことができるというのだが、――という話。
変態味の強い野郎によって体を開発されて、というのは、このエロ怖シリーズにおける宇佐美女史の定番というかんじがしますが、本作の場合、その男との関係は物語を牽引していくための素地作りに過ぎません。男と悲惨な別れ方をしたあと、フツーのとセックスでは到底満足できなくなってしまったヒロインが、バイブよりマシと付き合っているカレシからあることを耳にするのですが、その逸話が怪異の存在の正体を知る伏線となっているところが面白い。
ヒロインはやがてお局さまとビル男との凄まじいセックスを目撃し、いつかは自分もと夢見るのですが、ここからヒロインがついに桃源郷へと誘われる後半は完全にエロ怖の”怖”を喪失したエロ小説そのもの。冒頭、上司との愛欲を綴るシーンでヒロインの性癖をさらりと描き出しているのですが、それが件の怪異の存在を暴き立てる巧妙な伏線へと昇華される幕引きがいい。
これによって物語はエロからホラーならぬ怪談へと変じるのですが、フツーであればここで常ならぬものとの交合が突然の終幕を迎えたことで悲哀溢れる結末を見せるのかと思いきや、そこは現代のエロ怖ホラー。件のヒロインのポシティブ・シンキングによって明るい未来を予感させる言葉で締めくくられます。
全体として軽さが際だつ風格ゆえ、自分のような重厚さと恐さに比重を置いた作品を期待していると肩すかしを喰らってしまうこと確実という一冊ながら、ジャケのイラストも含めて、このシリーズにはやはり怖さよりは軽さと女子向けのエロが求められているのでしょう。残る『欲張りトモコの体験』と『肥満女のかぎりない欲望』はタイトルからして相当にアレですが、読了したらまたここに感想をあげたいと思います。