演葬会 / 藤 ダリオ

演葬会 / 藤 ダリオ何となーく見かけるとついつい買って”しまって”いるダリオ氏の作品。ダリオといえばゲームっぽいノリで人がジャカスカ死んでいく展開が定番ですが、本作はまさに新機軸。霊能力があるロッカーという、ともすれば大ハズシをしてしまうキャラ設定を存分に活かしてミステリ的な趣向を添えた逸品へと仕上げてきました。これは現時点での作者の最高傑作といいきってしまっても良いのではないかと。

収録作は、憑依体質のある仲間のドラマーがライブ演奏中、悪霊に取り憑かれるのを阻止すべくバンド仲間が悪霊の出自の解明と癒やしによる調伏を試みる「ガール・ライク・ユー」、訳アリっぽい別荘に憑いているらしい悪霊退治と心霊音楽の謎に意外な接点を垣間見る「プリーズ・プリーズ・ミー」、バンドの合宿先で過去の溺死事件の謎解きに挑む「甘い罠」、曰く付きスタジオの悪霊退散を依頼されたメンバーがホラー映画真っ青の霊騒ぎに巻き込まれる「呪われた夜」、子供霊の依頼を受けてリアルの事件へと巻き込まれた主人公が自らの出自を巡る謎に解を見出す「ならず者」に「プロローグ」と「エピローグ」を加えた全七編。

いずれも、ベルベットリンチというインディーズ・バンドを取り巻く数々の霊事件を描いたものなのですが、このバンドのメンバーがいずれも予知夢を見たり、霊と話ができたり、憑依体質を持っていたりという曲者揃い。第一話となる「ガール・ライク・ユー」では、ライブハウスでゴスロリ女の霊が目撃され、さらには百発百中の的中率を誇る予知夢の能力のメンバーの一人が自分たちのライブに死霊が飛び入りするという夢を見たからさア大変。メンバー達はこの霊の憑依事件によってデビューライブでトンデモない経験をしていることから、今回の予知夢がリアルになるのを阻止すべく、件の霊の出自を探ろうとし始めるのだが、――という話。ライブハウスに憑いている地縛霊と思っていたのが、意外な人物との接点によって物語は漫画っぽいノリへと転じていくのですが、この話は最初ということもあって、いうなればメンバーのキャラ紹介といったところ。続く第二話からがホラー的な下地にミステリとしての趣向を盛り込んだ本編のはじまりといってもいいでしょう。

「プリーズ・プリーズ・ミー」は、どうも「出る」らしいという別荘に赴いたメンバーたちだったが、しかしその噂に相反して建物の中にはどうも霊の気配がしない。いったいどういうことなのか、――という謎とともに、彼らの元に持ち込まれた心霊レコードを巡るもう一つの謎を絡めて物語は進んでいきます。

生き霊の可能性も検証しつつも、心霊レコードに込められた声の主についてはある程度見当がつけられるものの、死霊としか会話ができないという「縛り」によって、彼らを謎解きへと向かわせる設定が心憎い。別荘の曰くと、心霊レコードに込められたメッセージは、霊のあるジェスチャーを言葉そのままの死に際の伝言として謎解きがなされるのですが、霊現象を表に出して読者を誤導するとともに、霊体質の主人公達がそれでも霊の気配を感じないという違和を伏線としてホワイダニットの真相へと読者を誘う技巧が秀逸です。

「甘い罠」も、溺死事件というリアルな死について、霊的事象を絡めて謎解きをしていく展開なのですが、幽霊が発生するにいたった過去の事件において、当事者の記憶の中にある奇妙な齟齬のハウダニットが哀しい真相開示へといたる結構がイイ。もっとも心霊体験の中でも十二分にありそうなネタながら、それを敢えて当事者の視点ではなく、バンドメンバーの憑依事象に仮託して語っていく展開が心地よい。

「呪われた夜」も、登場人物達が体験する心霊現象に誤導を凝らした一編で、霊を感じる主人公があからさまな幽霊の登場にもソレを感じないという違和を伏線としてその謎解きを進めていく展開は、「プリーズ・プリーズ・ミー」にも通じます。こちらはダリオ氏らしいホラー映画ネタもさらりと織り交ぜてそれがまたささやかな伏線へと転化するのですが、この物語の終わりで主人公の過去の謎が提示されます。

「ならず者」は、ガキの幽霊につきまとわれる主人公が、彼の死体探しを行うことになって、――という物語で、探偵行為を行っていくうちリアルで現在進行形の事件へと巻き込まれていく展開はちよっと平山夢明風味。未練にとらわれている幽霊に対してセラピーを行い成仏させるという、幽霊との関わりは冒頭の「ガール・ライク・ユー」から一貫して描かれているモチーフでもあるわけですが、本作ではそうしたセラピーの下地作りとなる探偵行為に逆転の操りを凝らして、主人公の出自の謎へと近づいていくシリーズものならでは展開が後半に用意されています。

そして自らの霊体質の所以と、数々の霊を極上のセラピーによって成仏させた主人公は、「プロローグ」で語られていたある魂と対峙するべく過去の地へと訪れるのだが、――というのが「エピローグ」で、まあ、ありきたりといえばありきたりな癒やしの物語へと本作は着地するものの、ユーモアも交えたバンドメンバーたちの造詣を通して外側から描かれた主人公の内心や、「ならず者」で明かされた彼の過去を通過したあとでこの「エピローグ」を読んでみると、そんなありきたりさも不思議とイヤな心地はしないという、――このあたりの読後感が、従来のダリオ氏の作風とは大きく異なるところでしょう。

「やっぱしダリオっていったら、ダメっぽいノリのサバイバル・ゲーム小説だよな!」なんて、今までのダリオ氏の作風を愉しみにしていた読者にはやや違和感を残す物語ながら、個人的にはより一般小説に近づいた作風へと転身と、本格ミステリ的な要素と技巧を採り入れた本作は、角川ホラー小説のファンのみならず、ちょっとミステリにも興味あるんだけどなー、……なんていうライトなミステリ読みの方にも十分にアピールできる逸品といえるのではないでしょうか。『出口なし』、『山手線デス・サーキット』、『放課後デッド×アライブ』のような作風を期待する読者にはちょっと、……ですが、個人的にはダリオ小説の初心者であれば先入観なく本作の風格を愉しめると思います。