肥満女のかぎりない欲望 / 宇佐美まこと

肥満女のかぎりない欲望 / 宇佐美まことReader™ Storeで購入済みだったものの、スッカリ他の積読本に紛れて忘れていた本作、短編だしということでささっと読んでみました。結論からいうと、エロ怖ラブホラーにおけるいつもの宇佐美節で愉しめはしたものの、個人的にはやはり『の・ぞ・く――天窓の下』と『淫らなツユクサ』を超えるものではありませんでした。

物語は三十後半で倦怠期に入った夫婦が、ヒョンなことから豚女と知り合うことになって、……という話。旦那がデフ好みということもあって、嫁がこの拾った豚女を使って3Pを仕掛けると、夫婦はこの隠微なセックスにどハマリ。豚女の喘ぎ声があまりデカいもんだから、夫婦は郊外の一軒家に三人で引っ越し、そこでセックス三昧の共同生活が始まるのですが、どうやらその土地には曰くありげな魔物が潜んでいて、……というあたりがエロ怖の「怖」の部分。

その怪異の造詣が『顔のない悪魔』というか何というか、……そういうグロというかコミカルというか、そのアレっぽさがタイトルにも合致してなかなか。やがて3Pセックスを愉しむ夫婦の間に齟齬が生じ、ある者の死が訪れたところからミステリ的などんでん返しが待っています。どうせまた例によって最後にこの怪異がズルリズルリとキモチワルイ音をたてながら登場人物達の背後に忍び寄り、――みたいなノリだけで終わるだけかと思っていたので、後半の二転三転する構成にはやや吃驚。『の・ぞ・く――天窓の下』のようないかにもいかにも堅実な伏線回収でも、また『淫らなツユクサ』のような仕掛けによって悲哀溢れる幕引きが用意されているわけでもないのですが、ワルが因果応報で怪異に襲われそうな予感を残したラストはいかにもB級映画のノリで、好き者にはタマらないのではないでしょうか。

とはいえ、上にも述べた通り、B級ホラー映画的な作風は、硬派な宇佐美ワールドを期待していた向きにはやや複雑な感想を抱かせるに相違なく、そうした意味では『摩天楼のケモノ』や『イカすか 殺すか』のようなややコミカルな路線の作風と理解して取りかかった方が吉でしょう。エロ怖のビギナーは間違ってもコレから手をつけることなく、傑作である『の・ぞ・く――天窓の下』や『淫らなツユクサ』を読了してからにするべきでしょう。