台湾のインディーズ音楽シーンの中でも、個人的にイチオシなバンドのひとつである落差草原 WWWWの新EPがなんとなんと、日本のGuruguru Brainからリリースされました。Guruguru Brainは、同じく台湾の破地獄『稗海遺考 – Lost Ethnography of the Miscanthus Ocean』や『God of Silver Grass Scattered Purgatory』を少し前に出しており、クラウトロック(ロートルのプログレマニアとしてはやはりここはジャーマンロックと呼びたいのですが、そこはそれ)っぽい音楽に敏感なリスナーからも注目されているレーベル。
落差草原 WWWW といえば、五月に来台したPhewとは、Forests 森林とともに台北月見君想フで共演しており、さらに遡って三月には、Grimsが来日した際にゲスト・アクトとしてツアーに参加したAristophanes貍貓とライブを行ったりと、僅かながら日本にも縁があるような気がしているのは自分だけでしょうか、……自分だけだろうなァ……(そういえば、Aristophanes貍貓との共演ライブの主旨にはこれまた少しだけ日本が絡んでいたことを思い出しました)。
そんなわけで、台湾のインディーズ・シーンにおいてはまさに旬のバンドともいえる落差草原 WWWW が、日本のレーベルからアルバムを出すというのですから超吃驚。果たして前作のフルアルバム『泥土』から音はどのように変化したのか興味のあるところですが、結論からいえば、かなり変わりました。……というか、むしろ『泥土』が彼らのディスコグラフィーの中ではかなり異色な作品であるということなのでしょう。『泥土』は効果音にはじまり、旋律や音の質感そのものよりも、むしろ様々な音の連なりと積み重なりによって構築された音像が鮮烈な印象を残す抽象的な作品でしたが、今回リリースされた『霧海 Wu-Hai』は一転してリズムを重視した、これまた非常に「らしい」アルバムになっています。
ここで敢えて「らしい」と書いてみたのは、そのリズムや音調に彼らが今まで通過してきたエッセンスとでもいうべきものがふんだんに感じられるからで、たとえば「月亮 Moon」の力強いドラミングによって繰り出されるリズムは、お懐かしや、『通向烏有』を飾る一曲目「尋找白色衛星」のそれを彷彿とされます。あちらが囁きめいたボーカルとけだるげなベースによってダウナーな雰囲気を醸し出していたのに比較すると、「月亮 Moon」では、歪んだギターのアルペジオを交えて、明快なロックとして聴く者の耳に迫ってきます。
「眼林 Eyewood」は冒頭の実験音楽っぽいギターから一転して、高音のベースが唸りながら、エスニックなドラムとボーカルが牽引していく作風で、これは……クラブでガンガンにかけても踊って盛り上がれそう(爆)。この二曲は、日本のやや普通のロックよりのリスナーにも十分アピールできる曲調ですが、もちろんいま脂ののりまくった彼らがそんな判りやすい音だけでアルバムをまとめてしまうわけがありません。続く「冷夢 Callous」では一転して、冷たいシンセの音がひたすら浮遊し、それが轟音へと呑み込まれて静寂へ沈んでいくという過程を描き出した逸品で、佐藤聡明の『エメラルド・タブレット』を圧縮したかのようなその音像は、実験音楽ファンの琴線にも触れること間違いナシ、という一曲です。そしてアルバムのタイトルにもなっている「霧海 Wu-Hai」もまた民族楽器っぽいカコカコした音と背後に鳴り響くドローンへ重なるように、シンバルが異様な緊張感をもって盛りあがりを見せていく構成が素晴らしい。七〇年代のジャーマン・プログレや、八〇、九〇年代に国内のインディーズ・シーンを少しでも聴きかじったものであれば、ここで奏でられるギターとドラム、そしてシンセのあらゆる要素に、新しさとともに懐かしさを感じるのではないでしょうか。昔であれば、ゴッドマウンテンやTzadikからリリースされていても一向に違和感のない個性的なして迫力のある音は、自分のようなロートル・マニアにも十分に受け入れられるであろう魅力に満ちています。
個人的には前作『泥土』のしっかりと練られたコンセプトと抽象性を極めた美しき音像に惹かれますが、本作のような明快さは、お初の国内ファンに十分アピールできるような作風を考えれば納得でしょう。というか、これをきっかけにこのバンドがもっともっと注目されて、あわよくば来日してもらいたいッ(爆)! Guruguru Brainが破地獄と一緒に招待して、東京近郊でライブ演ってくれませんかねぇ……。Youtubeに上がっている映像などを見るにつけ、その呪術的なパフォーマンスは是非とも生で見たいなあ、期待してしまうのでありました。オススメです。
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