おやすみ人面瘡 / 白井 智之

偏愛。アマゾンでは酷評レビューがついていてちょっと可哀想な本作、個人的にはなかなか愉しめました。物語は、人瘤病なる奇病が大流行した日本を舞台に、グロな性癖を持つキ印を相手に商売を行っていた風俗店の関係者たちと、とある市の中学生たちの二つの視点から、奇妙な殺人事件と人瘤病が巻き起こした大事件が語られる、――という話。

本格ミステリに相応しい殺人”事件”は後半に現場の絵図つきで大展開されるものの、見所はこの殺人事件そのものではなく、そこに至るまでに描かれる大小を交えた数々の事件や逸話が推理の段階で伏線へと転化して、最後の最期に大きな構図を描き出す結構でしょう。アマゾンのあらすじでは、「真打ち」の「探偵」の正体をあっさりと明かしてしまっているのが残念至極なのですが、真打ち探偵の姿がこの物語の世界観ならではで、今ではごくごくありきたりに見えてしまう多重解決の見せ場にこうした外連を重ねて必然とした趣向は素晴らしいの一言。

そして同時に「探偵」がその奇妙な姿のまま様々な推理を繰り出していく見せ方そのものが、この物語世界ならではの被害者や犯人の振る舞いの謎を解明するための伏線となっている展開も秀逸です。実をいえば、推理の中で展開されるトリックや気づき――というほど大袈裟なものではないのですが――の数々は、黄金期にも見られたありふれたものに過ぎず、実際、推理の中でも登場人物の言葉を借りて「陳腐なトリック」を言われてしまうほどのものながら、それをこの世界観にしてこの奇妙な登場人物たちの姿形に当てはめるとアラ不思議、見事にグロくて鮮やかな仕掛けへと変じてしまうのだから面白い。

二つの視点から語られる物語世界が、やがて殺人事件をきっかけに重なりを見せる後半部では、ある人物の意外な正体がさらりと明かされるのですが、こうした趣向もこれまた新本格以降は見慣れたものながら、一方のシーンで演じていたこの人物の異様な行動の背後に隠されていた動機の壮大さというか狂気には呆れるほかなく、やや駆け足で説明されてしまうこうした動機面の甘さは見られるものの、ダメ押しとばかりに幕引き直前の段階で開陳されるある真実によって、登場人物の一人がある人物に向けていた愛情を「すべて紛い物だったのだろうか」と呟いてみせるシーンの無常さがとてもイイ。グロテスクでありながら、その背後には他者への愛情と哀しさが隠されているという物語世界は、ちょっと平山夢明にも通じるナ、と感じた次第です。

人工的に構築された異世界を舞台に、ネチッこいロジックで読者を翻弄する作風は、『東京結合人間』『人間の顔は食べづらい』と同じ路線ゆえ、本作も含めての過去作を三部作として、そろそろ作者は新境地を仕掛けてくるカモ、という気がするのは自分だけでしょうか。『東京結合人間』、『人間の顔は食べづらい』の異様な世界観とどんでん返しの連打が気に入ったひとであれば、まず本作も没問題といえる仕上がりゆえ愉しむことができるのではないでしょうか。オススメです。

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