コクーン / 葉真中 顕

『絶叫』『ロスト・ケア』のような作風を期待されていた方にはやや微妙な読後感を抱かせるのでは、と危惧される一冊ながら、個人的にはかなり愉しめました。そういう「仕掛け」とはまた違ったところで攻めてくる作風ゆえ、あまり先入観を持たずに読み始めた方がいいカモしれません。

物語は、とあるカルト団体が仕掛けた無差別乱射事件に絡めて、事件の当事者や親族、あるいはそうした人物にささやかな関わりを持った登場人物たちの独白によって語られるこの世界の仕組みとは、――と”いうような”話。過去の事件に大きな関わりを持った人物たちのモノローグが次々と語られていくとあれば、彼らが物語の展開の中でどのような関わりを持ち、そしてそれがどう転がっていくのか、あるいは最後に騙りの仕掛けを明らかにして今まで見ていた絵図を反転させることで読者をあッといわせる、――本格ミステリ読者であれば”そのような”作風をイヤでも期待してしまうわけですが、本作は『絶叫』や『ロスト・ケア』を読んで作者のファンになった読者の、そうした期待から微妙なずらしを交えて展開していきます。

過去と妄想を交えた夢の景色が、その人物の深層心理を明らかにしている云々というあたりは、すでに本格ミステリのみならず、小説としてもすでに手垢のついた趣向ではありますが、蝶によって導かれる夢の情景が最後の最期、ある登場人物の語りによって、小説世界の登場人物と読者のいる世界とを強引に連関させる仕掛けはなかなかのもの。狙いは大きく異なるのですが、この妄想めいたモノローグで語られる「世界の仕組み」を眼にした瞬間、『虚無への供物』の最後で「探偵小説として書くのか、それとも……」と亜利夫に訊かれた久夫が「むろん、探偵小説よ。それも、本格推理小説の型どおりの手順を踏んでいって、最後だけがちょっぴり違う――」と答えるシーンを思い出してしまったのは自分だけでしょうか。

震災の悲惨と記憶が物語に大きく関わっているという点では、谺健二の三部作を想起させるとはいえ、カルト団体や満州ネタまでブチ込んでしまったため、そうしたテーマがややボヤけてしまったところは評価の分かれるところカモしれません。しかしながら、上に述べた夢と現実世界との連関を考えれば、むしろそうした歴史的”事実”を列挙して、小説内の”世界”そのものを構築することに作者の力点が置かれていたことは納得できるし、これはこれでアリなのかな、と個人的には感じた次第です。

いずれにしろ、『絶叫』『ロスト・ケア』に続く本格ミステリの”そういう小説”だと思って手に取ると大火傷をする一冊ながら、ミステリ寄りの幻想小説、……例えば山田正紀の諸作に見られる眩暈を味わいたいという奇矯な方であれば、かなり愉しめるのではないでしょうか。オススメながら、一応取り扱い注意ということで。

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