なんとなーく作者のファンの間でも評価が分かれそうな一冊、――という印象を持ちました。で、自分はというと、……うーん……確かによくできた物語ではあるのですが、『双蛇密室』をらいちシリーズの至高とし、さらには『探偵AIのリアル・ディープラーニング』の次作が気になって気になって夜も眠れない(大袈裟)自分としては、やや辛い点をつけたくなってしまうのでありました。
あらすじはというと、メーラーデーモンなる人物から死の宣告を受けた自分が本当に死んでしまうという事件が発生。その被害者のひとりが探偵・らいちの上客だったことから、彼女自身が事件の解明に乗り出す一方、前作で相当ヒドい目に合った藍川が、くだんの事件をある場所に集った皆とワイガヤで推理しようとするのだが、――という話。
被害者がガラゲーを使っているという共通項を持ち合わせてい、それが事件の動機と構図へ非常に深く関わっているあたりは、物語前半から脱力エロもフル・スロットルで展開しているのに相反して存外に大真面目。最先端の技術や知見を事件の仕掛けにサラッと用いて読者をあッといわせる趣向は、『ドローン探偵と世界の終わりの館』から『探偵AIのリアル・ディープラーニング』へと続く最近の作者の作品としてはやや異色に見えるもの、なかなかどうして、むしろ現在進行形の技術のありように関する知見の裏付けがあるからこそ、この動機と事件の構図がリアリティをもって感じられる趣向が素晴らしい。
SNSを用いてらいちが残したコメントを手がかりとしつつ、ワイガヤでそこに隠された真意を読み解いていく推理のプロセスは、作者のお約束のエロ推理より、実を言うとかなり好み。なんとなく、本作の前半と後半に描かれているエロ推理のシーンは、読者の期待に阿っているように感じられてちょっとアレ、――と感じてしまったのは自分だけでしょうか。
確かにこのシリーズの登場人物がそろい踏みするようなかたちで物語が展開していく構成や、藍川の再生と復活を描き出したところなど、集大成といった趣きはあるものの、かといって集大成にしてはちょっと軽いまとめかたがマシュマロを食い過ぎた心地にも感じられて、自分はあまりノリノリで楽しむことができませんでした。やはり自分にとっては、エロはもちろんなんですけど、そのエロがトンデモな奇想と交合を果たした異形の本格 たる『双蛇密室』こそが、現時点でのこのシリーズの最高傑作という感想は変わりません。
とはいえ、フーダニットへと至る精緻な推理の過程とその大真面目なロジックを、エロすぎるシチュエーションで滔々と語るらいちのアレっぷりなど、「早坂といえばエロ」という“お約束”と読者の期待は決して裏切らないサービス精神溢れる作風は、初期作を彷彿とさせる仕上がりゆえ、自分のような偏屈なファンではない、もっとカジュアルに作者の作品を楽しんでいる方であればかなり楽しめる逸品といえるのではないでしょうか。
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