凍てつく太陽 / 葉真中 顕

エンタメ小説の傑作。フーダニットに絡めた仕掛けに加えて、本格ミステリ的な楽しみを上回るほどの冒険小説的な展開をフル導入することで極上の一冊へと仕上げた逸品でした。

アイヌ出身の特高刑事を主人公に、連続毒殺事件「スルク」を追いかける冒険小説、――という大枠の骨格に、濡れ衣を着せられて刑務所へとブチこまれた主人公の脱獄劇や、軍部の秘密兵器「カンナカムイ」の謎など、終戦間際の北の大地という舞台ならではの物語を紡ぎ出した作者のエンタメ・スピリットにまず脱帽。北海道にアイヌ、さらには朝鮮人の男とコンビを組んで巨悪に挑む、――という展開に、寿行・ハードロマンの面影を感じてしまったのは自分だけではない筈です。

アイヌに朝鮮人というマイノリティの登場人物が抜群の活躍を見せる一方、前半では単なるワルにしか見えなかった「拷問王」の称号を持つ男が物語の後半では探偵役の一人として捜査の主導権を握る人物として描き出した陰影も素晴らしい。次第に明かされていく彼の過去とトラウマから、前半部での彼に対する印象が次第に変わっていく手法もまた見事で、それが最後の最後、エピローグふうに描かれるあのシーンでは見事な効果をもたらす構成もまた秀逸。

秘密兵器たる「カンナカムイ」の正体については、このタイトルからやっぱりアレしかないでしょ、という点で大きな驚きこそないものの、連続殺人犯「スルク」の正体については、あまりに見事なハード・ロマン的な展開からそんな仕掛けはないもののと思い込んでしまっていたので、思わずええっ?!と驚いてしまいました。またなぜ彼が「スルク」を名乗っていたのか、という点についてもアイヌの思想をガッツリと重ねて、その狂気めいた振る舞いと操りに説得力を持たせているところも素晴らしく、たびたび主人公の口を通じて語られるアイヌの自然観や宗教観が見事な伏線となっている構成もいうことなし。

「民族とは何か、国家とは何か、人間とは何か。」という重々しいテーマを掲げながらも、決して重厚さに溺れることなく、軽快なテンポで進んでいく作風がまた好印象で、上にも書いた通り、その面白さはストレートな冒険小説的でありながら、また寿行センセのハード・ロマン的な趣きもあり、と昭和チックな極上のエンタメ小説を所望のロートルでも必ずや満足されること間違いナシ、という逸品です。『絶叫』『ロスト・ケア』から続く社会派としての風格はそのままに、さらなるエンタメ小説の高みへと昇華させた物語は、まだ作者を知らない一般読者にも大いにアピール可能な一冊といえるのではないでしょうか。超オススメ。

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