第六回島田荘司推理小説賞の一次選考通過作の簡単な紹介(2) 弋蘭『無無明』

作者の弋蘭は、前回入選した『誰是兇手』の作者ですが、今回はがらりと作風を変えて“一見すると”サスペンス風味を強くした物語で攻めてきました。タイトルの『無無明』というのは、般若心経から。作中にも般若心経が引用されています。

弋蘭 《無無明》『無無明』

六つの部位に切り刻まれ、ばらまかれた少女の屍体!

切断された部位の傍らには木人形が置かれていた。警察の捜査によって、屍体が遺棄された場所には、裁判官であった被害者少女の父親が判決を下したある事件の関係者たちの姿が――。過去の事件の捜査を進めるうち、陵辱された末に殺害された哀しき少女の姿が浮かび上がる。しかし判決で犯人と目された人物は数年前に謎の失踪を遂げていた。彼は今どこに? そして元裁判官の娘の屍体を切断した犯人の意図は? 木人形に隠されたある人物の悲壮な思いと憎悪がすべてを明らかにする!

『誰是兇手』も復讐劇にしては特異な動機を提示して、本格ミステリの定石から外れた事件の構図を凝らした佳作でしたが、本作もまたバラバラにされた少女の屍体が各所にバラまかれ、そこには奇妙な木偶が添えられていた、――などいう猟奇殺人事件的な風格を前面に押し出しながら、隠された過去の出来事を警察の視点からあぶり出し、そこへ捜査の途上からはまったく見えていなかったある人物の哀切とねじれた復讐劇を明らかにしてみせるという物語。

一筋縄ではいかないという点では『誰是兇手』と同じく、この本格ミステリ「らしくない」結構と展開が作者の持ち味なのでしょう。本格ミステリに期待される伏線回収の妙やロジックの視点から見ればやや異色作ともいえる風格でありながら、それでもこの賞において入選に至るまでに評価されたのは、やはりひとえにその豪腕ともいえる「物語の強さ」がその理由ではないかと。

次回は香港からの刺客・子謙による怪作『《阿帕忒遊戲》『アパテー・ゲーム』を取り上げる予定です。乞うご期待。

第六回島田荘司推理小説賞の入選作三編が金車文藝中心から発表されました

 

誰是兇手 / 弋蘭

 

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