アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾

傑作。心待ちにしていたシリーズ――と言いながら、前作の刊行が2016年。『鳥籠使い』と『夜宴』のメンバーはまだいいとして、『ロイズ』側のアリスとカイルの印象が頭のなかでボヤッとしているままに読み進めていったものの、ハマった(爆)。とくに今回は三つ巴のとっ散らかったバトル・シーンが圧巻で、本格ミステリとしての人狼村と人間村の二つの舞台で続発する事件の謎解き以上に堪能しました。

物語の舞台はドイツで、人間村では人狼による人さらいが発生。その調査を進める『鳥籠使い』ご一行が人狼村に潜入すると、こちらでも不可解な殺狼事件が続発していることを知る。やがて壮絶なバトルを経て明らかにされる人間村と人狼村を跨いだ不可解な事件の真相は、――という話。

前作同様、ここでも人狼という怪物の形態をフル活用した仕掛けが秀逸で、探偵の輪堂鴉夜は現場をさらっと見た瞬間に、実は真相を喝破しているものの、そのあたりを素通りして、人狼村と人間村双方の登場人物たちに隠された秘密と過去を繋いで後半に明かされる事件の構図が素晴らしい。

『鳥籠使い』側の一人が途中ではぐれたり、人狼村と人間村と二つの舞台が交錯する展開、さらには『夜宴』と『ロイズ』の動向までを平行して活写していく構成ながら、ばらけた印象が皆無というところが奇跡的。『鳥籠使い』で人狼村にわけあって潜入することになった彼女の視点によって描かれる人狼の様子が強度な誤導を発動させ、そこに人間村での登場人物の過去を重ねることで、暗躍する犯人の正体を気取らせない仕掛けが秀逸です。

人狼と人間のいずれが正義で悪かという判定を宙づりにして事件の真相を見抜く心眼は怪物たる『鳥籠使い』一向ならではで、ここへさらに三つ巴の戦闘を加えて正義と悪の単純な二元論に落とさないスタンスがとてもイイ。そして『鳥籠使い』に『夜宴』、『ロイズ』の三者が絡むからこそ、様々な局面でお互いに手を取り合い、あるいはだまし合うという濃密なドラマが展開していく趣向も素晴らしいの一言。

また前作にも増して手に汗握る戦闘シーンですが、今回は同時並行で展開する頭脳戦が際だっているところに注目でしょう。人狼を倒す真打津軽が師匠の言葉を思い出して繰り出す技などは、マンマ『喧嘩稼業』で梶原が工藤の剛力を無力化するために出したアレじゃないノ! と大興奮してしまう解説と描写が圧巻で、さらには静句の戦闘で、媚薬攻撃を逃れるための方法を考えているさなか、敵方が彼女の行動を観察してその裏をかこうとする「読み」の描写など、肉弾戦以上に今回はその「ロジック」を愉しむことができました。

戦闘シーンの肉弾戦の素晴らしさから、少年漫画を愛読している思春期のボーイにも大いにアピールできるかと思うのですが、一方で、鴉夜と津軽のベロチューとか、媚薬でメロメロにされた娘っ子たちの濃厚なペッティング・シーンを開陳して、健全な思春期ボーイをエロ鬼道に堕とす仕掛けもまた盤石。ロジックにバトルにエロをテンコモリにして、少年、青年、さらには壮年のエロ野郎までをも魅了するポテンシャルを持った本シリーズ。次作が待たれるところではありますが、またまた数年後になりそうなのがちょっとアレ。ともあれ、本格ミステリとしても、また激しい戦闘シーンを文字でもタップリ堪能できる本作は、抜群に面白いエンタメ小説を所望の万人にアピールできる傑作といえるのではないでしょうか。超オススメ。

アンデッドガール・マーダーファルス / 青崎有吾

アンデッドガール・マーダーファルス 2 / 青崎 有吾