教会堂の殺人 ~Game Theory~ / 周木 律

20151030-2サブタイトルに「Game Theory」とある通り「ゲーム理論」をテーマに据えた物語で、フーダニットの要素は薄く、本格ミステリーというよりは一昔前の懐かし風味漂うホラー小説のような、……といえばおおよその雰囲気は感じていただけるカモしれません。

あらすじとしては、例の建築家が建てた怪しげな屋敷を訪れた人物たちが、次々とその館の仕掛けの餌食になってご臨終。あの人も、またあの人もというカンジで犠牲者が続発する中、いよいよその館に”神”が光臨して、――という話。

前作となる『伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~』あたりから事件の黒幕だと思っていた人物のさらに背後にホンモノの黒幕がいて、……という真相開示によってシリーズ全体の構図が俯瞰できるようになってきたわけですが、本作では、シリーズ探偵かと思っていたあの人が今回はなんとなんと、かなり落ちぶれた役柄でご登場という意想外な流れにまず吃驚してしまいました。そしてシリーズの中でもなかなかに重要な役割を担っていた人物までもがこの館の仕掛けの餌食になってしまうという鬼畜な展開と、登場人物たちの過去も交えて意外な関係が明かされる後半など、前作に続いて今回もまたこのシリーズの終盤をいよいよ予感させるカンジだったりするわけですが、果たしてどうなるのか……。

上にも述べた通り、フーダニットとしての要素が薄い本作ではありますが、図解も交えて館の仕掛けを見破るハウダニットに関していえば、今回はちょっと難易度高し、――というか、いつもがいつもなので今回ばかりは図解を軽くチラ見しただけであまり深く考えなかったのが功を奏してか(苦笑)、館に凝らされた物理的仕掛けにゲーム理論も絡めた趣向はなかなか愉しむことができました。もっとも作者もまた図解を見た瞬間読者に見破られるのは百も承知らしく、本作の作中でもでもこの館が”『回転』する堂”だと登場人物の一人に”堂々”と語らせています。もっともその「回転」という言葉の意味するところは、館の一部が物理的に「回転」するという本シリーズの特色はもとより、本作ではその「回転」について「死のゲームが回る」ものであるといい、その「回転」の鍵は「人間の心、想い」であるとしているところが秀逸です。ここで「人間の心、想い」が死のゲームの”堂々”巡りを引き起こすという真面目な作者らしからぬ駄洒落を見抜いてニンマリするのも一興でしょう。

とはいえ、本作でもっとも吃驚したのは、この殺人を目的としたトリックそのものではなく、館の存在そのものに大きく関連したある秘密で、これが明かされた瞬間、思わず「ゲドババァ!」と心の中で叫んでしまったのはナイショです(爆)。――というか、多くの本格ミステリーマニアは同じ心境だったのではないかと推察するのですが、いかがでしょう。

作者にはこのシリーズを早く畳んでいただき、もっと『災厄』『暴走』などサスペンス、パニックものに本格ミステリーの趣向を取り入れた作品や、『アールダーの方舟』のような歴史ミステリーに注力してもらいたいナ、というのが個人的な希望ではあるのですが、本作の幕引きを読んだ限りだといよいよこのシリーズも佳境に入ってきた雰囲気でもあるし、残された二人のヒロイン(?)と例の元探偵役の男(?)たちがどのようにして黒幕が用意した謎に立ち向かっていくのかが気になります。というわけで、このシリーズも最後まで付き合うことになりそうな予感――。次作も期して待ちたいと思います。

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