いまアマゾンを覗いて見たら『シリーズ10万部突破!』とか。納得の面白さなのですが、ここまでヒットとしているとはおどろき。またあらすじ紹介に「因縁帳、転ず。」とある通りに、本作は新章突入という感じで、小粒ながら堪能しました。
物語は、善光寺近くのある寺のお堂を別の曳き屋が移動させたことをきっかけに周囲では狼だの幽霊だのが出現。そこにヒロインと彼女がホの字の曳き屋が引き寄せられることになり――という話。
冒頭からヒロインをはじめ登場人物の説明がいつになく詳しく語られているのも、ここから第二部スタートかと感じさせる所以でありまして、ヒロインの仙龍に対する思いはますます募るばかり。彼女は仙龍の曳き屋と別の曳き屋との違いを探るため、件のお堂の曳き屋仕事を教授とともに観に行くことになる。仕事自体は滞りなく終わったものの、そのあとに爺は怪異に直面して不審死を遂げ、周囲では狼絡みの怪異が出現する――との噂を耳にしたヒロインが関わることになって、という展開なのですが、今回の謎はお堂の下に埋められているものと今回の怪異との連関で、それがタイトルにもなっている怨毒草紙。サニワの本領発揮で現出する幻覚のなかにめざとく筆を見つけたヒロインの気づきから、ある人物のおそるべき所業と「鬼」の存在が仄めかされていく後半はアッサリ風味ながら相当にスリリング。
毎回曳き屋のシーンはあっさり描かれているのが、今回はバッチリ怪異が出現するあたりはちょっと風格が変わってきた印象があります。またいよいよ仙龍の一族の因果が長野ではなく、とある場所――そこは今回の因縁でも登場した「鬼」にも大きく関わっている土地なのですが――がほのめかされ、次からは長野を出て、そちらの方に舞台が移っていくのかどうか。このあたりも興味のあるところです。
ヒロインが仙龍にメロメロになればなるほど、サニワの自覚を強くして絶対に彼を救ってあげるんだと決意する展開になっていると同時に、それに伴うかたちで少しずつ仙龍の「弱さ」がほの見えてくるところも面白い。
上にも述べた通り、本作では登場人物の紹介も前半にしっかり配してあるので、本シリーズのビギナーでも案外すんなり受け入れられるのではないでしょうか。個人的には今一番気になっているシリーズもので、早くも続きを読みたい気持ちでタマりません。次作を持して待ちたいと思います。