四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング― / 早坂吝

傑作。短めの長編ながら、非常にコッテリした一冊で堪能しました。物語は、犯人の以相が闇オクで犯罪を売り出すと、落札したのは雪深い場所に建つ奇妙な館に住む少女で、従姉を殺した犯人に復讐したいという。犯罪を食い止めるべく相以と輔はその館に入り込む。やがて殺人が起きて――という話。

一見するとバラバラに見えるコロシの連鎖がその実、トンデモないところから繙かれていく流れは盤石で、本シリーズで読者が期待するAI絡み、というかAI縛りのネタをブチ込んで、それを事件の解決とその後の展開に用いたミニマリズムが超好み。

本作の革新的なところは、やはりAIが犯罪の中核にいる、ということで、AI絡みのモチーフをふんだんに使いながら、従来の本格ミステリにおいて描かれる犯罪の構成要素を再構築してみせた趣向でしょう。犯人がいて、凶器があり、犯行現場があり、屍体があり――と、四つの構成要素をざっとピックアップしてみましたが、犯人が××、凶器が××の箇所に恐るべき捻れが生じているところに大注目。犯人、凶器、屍体という、本格ミステリにおける犯罪の構成要素の定義づけを再構築してみせた点においては、この作品にも通じるところがあるものの、こちらは構成要素の中でも、読者がもっとも注目すべきフーダニットにおいて、バカミスすれすれの離れ業をさらりとこなしてしまったところが素晴らしい。

さらにフーダニットの外連の後にも、主人公たちが危機一髪という状況において、AIネタを突き進めて活路を見出す流れが秀逸です。この描写はバカミス、というよりはダリの絵か、はたまたヒプノシスの写真を眺めるかのような幻視力に充ちていて、これをまた軽妙な文体であっさりと描いてしまう。バカミスを出自とする作者の奇才、異才なくては本作のような傑作は生まれなかっただろうな、と大納得してしまう逸品で、作者のファンであればマスト、ファンでなくとも、今読んでおかないとヤバいよ、と言えるほど本年度の大きな成果にして作者の代表作たる一冊といえるのではないでしょうか。超オススメ。

探偵AIのリアル・ディープラーニング / 早坂 吝

犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー―探偵AI 2― / 早坂吝