タラニス 死の神の湿った森 / 内藤 了

『よろず建物因縁帳』で、作者の作品にどハマリした、自分のような読者にはちょっと「??」となる一冊。後で知ったのですが、本作の主人公となるボーイは、作者のとあるシリーズにチラッと登場する人物とのこと。そっちの方は全然読んでいないので、なおさら「??」だったものの、そうしたものを切り離して純粋に“「お屋敷」ホラー&ミステリ“として読めばなかなかに愉しめる一冊でした。

物語は、イギリスの、とある曰くつきのお屋敷に住むボーイは、家政婦から少女の幽霊の話を聞かされる。屋敷の敷地には焼け崩れた建物があり、くだんの幽霊はそこに“出る”という。しかし兄に連れられたその呪われた場所に忍び入ったボーイの周りでは、人死にや不可解なことが発生し出して、――という話。

人死にあり、とはいえ殺人事件といったわけではないものの、ホラー&ミステリの「ミステリ」の言葉で示される「仕掛け」はしっかりと凝らされてい、個人的には新本格ミステリ作家の某シリーズの某作や、皆川博子のアレとか、イアン・バンクスのアレなど、いろいろとイメージしてしまう吃驚の仕掛けで、特に後半部の展開は大いに堪能しました。

少女の幽霊の曰くや、その所以に言及して、物語の謎をそちら側にぐぐっと引き寄せつつ、仕掛けに絡んでいるある事柄にまつわる違和感から読者の目をそらそうとする技法は、じっくりジワジワと進んでいく前半のゴシック的展開と見事な親和をなしており、後半ある人物の正体が明かされるところには超吃驚。まさか、こんな仕掛けがあるとは思いも寄らず、これで物語は一気に収束へ向かっていくかと思いきや、“素面”にかえったボーイが今度は自らの出自にまつわる謎を解き明かすべく、呪われた土地を出て、都会へと赴いてからの展開もスリリングで素晴らしい。

上にも述べた通り、本作の主人公たるボーイは、作者のあるシリーズに登場する奇人の少年時代らしいのですが、奇人生誕の逸話であると同時に、これから始まるであろう成長物語の前振りとしても、ボーイの未来を知らずとも愉しめる一冊に仕上がっています。

舞台は外国、おまけにゴシック、というあたりで、『よろず建物因縁帳』の信州とは土地柄も雰囲気も大いに異なるため、いささかとっつきにくいところはあるものの、前半の緩慢なゴシック的展開を抜けたあとに用意されている「仕掛け」と、そこからの展開はミステリ好きもゾクゾクできる逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。

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