第四回島田荘司推理小説賞レポート@台湾(3)

前回の続きです。授賞式に講演会、そしてサイン会が終わると、一行は、台湾ミステリ作家たちを招いた夕食会の会場となる満穂台菜へと向かいました。今回はいつになく参加者が多く、円卓もたくさん。会場でもちょっとだけ話ができた寵物先生、陳浩基氏をはじめ、最近台湾文化センターでのイベントに参加したおりに観ることができた台湾ミステリー映画の傑作『共犯』の脚本を書いた烏奴奴女史(彼女のことはこの後のエントリでも言及するカモ)など、台湾ミステリ界からもたくさんの参加者があり、――といいたかったのですが、現在海外在住の林斯諺氏に会えなかったのが個人的にはちょっと寂しかったです。

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で、そうした来賓の中でも最重要人物ともいえるのが、やはり島崎博御大でしょう。二年前には、膝の手術をされた後だったこともあって体調面がちょっと、などいう話もしたのですが、今回は大変お元気で……というか、泥酔度がパワーアップしていた様子(爆)。とはいえ、酔っ払う前にけっこうな話ができたので、今回は備忘録がわりにそのときの話題について少しだけ記しておきます。まず現在の台湾ミステリの状況についてですが、昨年、今年の刊行部数や売り上げから、台湾ミステリは”新しい段階”に入ったと思うとのこと。確かに第一回島田荘司推理小説賞が立ち上がる前と現在とでは台湾ミステリ界もかなり、――それも良い方向に変わっていることは自分でも実感できます。ただ島崎御大曰く、作品の質に関してはまだまだだと。――もっとも御大は毎度毎度「まだまだ」と言っているで、これからもこの姿勢が変わることはないのではないかと。それもまた若手に対する叱咤激励と考え、こちらは「先生の代わりに自分は褒める側に廻りますから」と返した次第(爆)。

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それと『オール読物』も未だに読んでいると、――島田荘司推理小説賞は文藝春秋が関わっているので、ここでは『オール読物』の名前が出たわけですが、そのほかにも新刊はたいてい取り寄せて眼を通しているとのことでした。

最近はあまり台湾ミステリ界に直接関わって何かをすることはないとのことでしたが、今回は御大の訪台に合わせて刊行された台湾版『星籠の海』の解説を執筆されたとのこと。日本のミステリ絡みでは現在進行中の企画があるとのことですが、この件に関してはもっぱら日本側にまかせっきりとのこと。この企画の内容を伺って自分も愉しみで仕方が無いのですが、果たしてこの件について自分がここで話していいものかどうかちょっと判らないのでとりあえずはこのくらいで。本多氏、野地氏あたりからこの企画についてはいずれ明らかにされるのではないでしょうか(と書いてしまうと、だいたいどんなものなのかは察しがつくのでは。期して待ちましょう)。

この場で色々と話をすることができたひとをざっと挙げていくと、まずは映画『共犯』の脚本を書いた烏奴奴女史。以前のエントリ『「映活vol.3<映画『共犯』上映&トーク>」@台北駐日経済文化代表処・台湾文化センター』でも書いた通り、自分の場合、第一回島田荘司推理小説賞で『獵頭矮靈』が一次選考を通過したことでその名前を知ることになったのでが、実はこの授賞式の前日にも彼女とはちょっとだけ話をしています(これについては後のエントリで書くつもり)。今回は御大の映画『幻肢』の藤井道人監督も訪台されていてこの夕食会にも当然ながら参加しておりました。というわけで、藤井監督と彼女も含めた写真も撮らせてもらいました。こんなかんじ(左から佐倉プロデューサー、藤井監督、烏奴奴女史、御大)。

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それと陳浩基氏とはもっぱら傑作『13.67』ついて。ウォン・カーウァイがこの作品の映画化の権利を手に入れたことはすでに報じられていることと思いますが、そのあたりの話をはじめ、この作品の版権が海外――とりわけ欧米で争奪戦を演じられるほどになったその経緯についてなど、色々と興味深い話を聞くことができました。そして最近感想をあげた陳浩基・寵物先生の共作『S.T.E.P.』創作の逸話についてですが、この共作の話を陳浩基氏が寵物先生に持ちかけたのは2009年ごろで、そのあとずーっと放置されてきたのは、……寵物先生のせいだろうなァ……と、心の中で嘆息していたのはナイショです(爆)。まあ、とにかく寵物先生には島田荘司推理小説賞受賞後の作品を早く台湾皇冠から出してもらいたいものです。もちろん陳浩基氏の『13.67』のような大傑作を――と期待しているのは自分だけではないでしょう。入選にはいたらなかったものの、林斯諺氏も第一回島田荘司推理小説賞入選作である『冰鏡莊殺人事件』が刊行された後、『無名之女』という21世紀本格の傑作を台湾皇冠から刊行しているわけですから。

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第三回島田荘司推理小説賞受賞作である『ぼくは漫画大王』の作者・胡傑氏には「クラウドファンディングの動画ででっかいサングラスをしていたのは何で?」という質問をしてみました(爆)。胡傑氏曰く「覆面作家というわけではないが、本業もあるのであまり顔は面に出したくない」とのこと。

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同じく第三回島田荘司推理小説賞受賞者である文善女史からは、受賞後皇冠から刊行された新刊をいただきました。まだ読んではいないのですが、連作短編でそれぞれの物語にスイーツが絡んでいる――というとコージー・ミステリーでしょうか。シッカリと人は死ぬそうですが、少し暇ができたときにでも読んでみたいと思います。

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そして今回入選を果たした提子墨氏。とにかく授賞式の舞台上でもなかなかにイカしたキャラで魅せてくれた氏ですが、すでに二作目に着手しており、ほとんどできあがっているとのこと。今回の『熱層之密室』の探偵と、この作品にも少しだけ登場した日本人が、二人で海洋を舞台にした事件を謎解きを行う――というもののようです。話をうかがった限りでは、冒険譚の要素を大胆に加味した作品となりそうで、やはり本格ミステリーでも御大の『水晶のピラミッド』や『アトポス』のような作風が作者には合っているのでは、というかそういうものが読みたいッ! と考えていた自分の願いが叶いそうです。これは期待。

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そして薛西斯嬢。写真がいっさい公開されておらず、入選が発表されたあとに金車文藝中心から刊行された雑誌のインタビュー(『『藝文風』最新号に掲載された第四回噶瑪蘭島田荘司推理小説賞入選者インタビューその一 『H.A.』の作者・薛西斯』参照)でも、他の二人の記事はプライベート写真が掲載されているにもかかわらず、彼女はいっさいナシというところから、その存在は謎のヴェールに包まれていたわけですが、授賞式の会場に現れた彼女は可愛かった(爆)。御大の熱狂的ファンという彼女は話をしていてもとても愉しく、ノリノリで御大とのツーショット写真も撮らせてくれました。

――とこんなかんじでしょうか。台湾ミステリ界からの参加者はもちろん、日本の映画界からは藤井監督が、そして台湾ミステリと台湾映画を繋ぐ烏奴奴女史が参加したりと、ここからまた何か新しい企画が始まったりすると、……と期待してしまいます。というか、きっとまた数年後には台湾ミステリ、台湾映画、そして台湾と日本の本格ミステリーを繋ぐ何かが生まれ「このきっかけは第四回島田荘司推理小説賞のあのときの……」と思い返す日が来ることでしょう。というわけで長くなってしまいましたが、今回はこのくらいで。次回は訪台二日目に行われた『島田荘司と行く 宜蘭ウィスキー工場見学の旅』ツアーの様子をお伝えしたいと思います。

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